天空のエトランゼ〜赤の王編〜
(確かに…あの力は、あたしにあった)

祖父九鬼才蔵に幼き頃より、闇に閉じ込められ、闇と戦う術を叩き込まれた九鬼。

(闇こそが、あたしの居場所だった日々…。光を知らなかった日々…)

そんな中で、闇を照らす月こそが…九鬼にとっての光であった。

月のようにおなり…。

祖父の言葉がよみがえる。

微かな光。太陽とは違い、見上げ…見つめることのできる優しい光。

そんな光になれと。

だけど、あの力は違った。

一度だけ使ったあの力は、眩し過ぎた。

そして、強力過ぎた。

まだ…人の普通の暮らしを知らなかった九鬼には、早すぎ力だった。

だから、兜は預かることを決めたのだ。

人間として、普通の学校に通い…暮らすことを経験した後に、取りに来いと兜は言った。

この大月学園に。


そして、今…その九鬼は、大月学園にいる。

しかし、肝心の兜が行方不明となっていた。

突然のことである。

彼が持つ乙女シルバーのケースの行方も…わからなくなっていた。

だけど…九鬼が入学して、数ヶ月はたっている。

兜が行方不明になったのは、数日前。

取りにいく気ならば、とっくに行っていたはずだ。

なのに、彼女は行かなかった。

その理由は、簡単だ。

(幼き頃…。闇と戦い、生き残る為とはいえ…あたしは、多くの人を殺して来た。犯罪者や殺人鬼。祖父が金で連れてきた人々を、あたしは殺してきた)

九鬼は拳をぎゅっと握り締め、

(そんなあたしに、光を纏う資格があるのか?)

自らに問いかけた。

能力が劣る量産型の乙女ケースを使うのは、云わば…戒めのようなところもあった。

自分では、気づかなくても。


(しかし…)

九鬼の脳裏に、牛と馬の頭をした魔物の言葉がよみがえる。

(炎の騎士団…)

今までとまったくレベルの化け物。

その者達と戦うには、今の力では敵わないことも…九鬼には、痛いほどわかっていた。
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