天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「わ、我に…用だと?」

額を地面に押し付けられている九鬼の姿が変わった。

もとのタキシードの男に戻る。

「そうよ」

女は足で踏みつけながら、タキシードの男に顔を近づけ、囁くように何かを言った。

次の瞬間、女は足をどけた。

「了解した」

タキシードの男が地面についていた両腕に力を込め、身を起こして立ち上がると、もとの服装に戻っていた。

「その申し出を受けよう」

「あなたに、断る権利はないわ」

女は顎を上げ、タキシードの男を見下した。

「く!」

タキシードの男は奥歯を噛みしめながら、その場から消えた。

「あなた…ごときにね」

そう言うと、女の姿も…倉庫裏から消えた。





「どこ行ってたのよ」

次に女が現れたのは、大月学園から数百キロ離れた…山の中にある廃校だった。

誰もいない夜の戸張が落ちた教室に、テレポートアウトした女は後ろから声をかけられた。

「大した用ではないわ」

振り返った女の目に、頬杖をつきながら、木製の古びた机の上に並べたトランプを捲る女が映った。

「そう」

それ以上何も訊かず、トランプを捲り続ける女の名は、上野沙知絵。

「あなたこそ…そんなものを信用してるのね」

炎の女の名は、リンネ。

「信用はしていないわよ」

トランプを捲りながら、沙知絵は口許を緩め、

「運命や偶然は、信じない。必然以外はね」

トランプを捲るのを止めた。

何回やっても、占いの結果は同じだった。

破滅。

十回以上やっても、同じならば…仕方があるまい。

沙知絵は椅子から立ち上がると、トランプをぐちゃぐちゃに混ぜた。

「あとは、自分自身の問題よ。信じるも信じないも…選ぶのも、選ばないのもね」

そして、リンネを見ると、笑った。

「あなたも占ってみる?」

「悪魔が占うなんて、訊いたことがないけど」

リンネは肩をすくめ、沙知絵の前まで来ると、カードの山に手を触れた。

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