天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「これで、人は知るだろう。必要なのは神ではない。力だとな」

十字軍本部を歩くゲイル・アートウッド。いや、もうゲイル・アートウッドとは呼べないかもしれない。だが、それに気付く人はいない。

「力ですか?」

その隣を歩く軍服姿の男は、ゲイルに訊いた。

「有無」

ゲイルは頷くと、

「人がなぜ、宗教を信じると思う?」

逆に訊き返した。

「それは、神のご加護を受けたいからではないですかな?」

その答えに、ゲイルは鼻を鳴らすと、ギロっと男を睨んだ。

「そもそも、それが間違っている!この世界の神は、人間の上に、魔物…いや、魔神を創られた。その時点でご加護など、あるはずがないのだよ」

「…といいますと?」

「食物連鎖の下にいる人間が、彼らに殺されるのは、自然の通り…。つまり、神の決めた規律に背いているのが、今の人間だよ」

「だとそれば…今の我々の行動は、神が決めたルールに背いていると?」

男は眉を寄せた。

「しかし…それもまた、神のせいでもある。愚かにも、神は人間に知恵を与えてしまった。自ら定めた規律を破る知恵をな。我々はただ…殺されはしない」

「そうですな」

ゲイルの言葉に、深く頷いた男。

「神に教えなければならない…。我々にも、頂点に立つ資格と力があると」

ゲイルと男は、白い扉の前で立ち止まった。

ゆっくりと扉が開くと…そこは巨大な格納庫だった。

「そうです!我々には、魔王も…いや、この星そのものを破壊する力を得たのです!禁断の力!科学という力を!」

男は、格納庫に聳え立つ無数の鉄の柱に向かって手を広げた。

それは、ただの鉄の柱ではない。

核ミサイルだ。

「この力を使って、魔界を一気に壊滅しましょうぞ!」

男は、興奮していた。

格納庫に並ぶ核ミサイルの数は、百八十発。

それは奇しくも、人の煩悩と同じ数だった。
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