天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「先輩!」

ジャスティンは迫ってくる魔物の多さに、ティアナを守って戦うことは不可能であると判断し、逃げることにした。

ティアナを背負うと、後ろに走り出した。

別に逃げることが、駄目だとは思わない。時に、戦うことこそが、無謀な時がある。

命がかかっているならば、逃げるべきなのだ。

特に、守らなければならない人がそばにいるならば、逃げなければいけない。

それが、命を守るということになるのだ。

他人を守る為ならば、プライドを捨てることができる。

そんな人間だからこそ、ジャスティンは生き抜くことができたのだ。

全力で走るジャスティンの背中で、ティアナが何とか言葉を絞り出した。

「ごめんなさい…」

「何言ってるんですか!」

ジャスティンは、前を見た。半壊した十字軍本部を見つめ、

「本部内で、籠城します。何とか少しぐらいは、時を稼げるでしょうから」

真っ直ぐにそこに向かうジャスティンに、ティアナが言った。

「あそこは駄目…。まだ逃げれなくて、パニックになっている人達がいるわ」

ティアナの目には、先程の数百人の剣を持った無謀な特攻も、パニックによるものに見えた。 魔法を使えなくなった人間が、すぐに現状を冷静に受け止めることなど、不可能だ。

「ジャスティン…」

「先輩」

ジャスティンは、唇を噛み締めた。

もし自分達が、十字軍本部を避けて逃げたところで…必ず魔物に蹂躙されるだろう。

ジャスティンは覚悟を決めた。

振り返り、後ろから進軍して来る騎士団との距離を計ると、ティアナを地面に下ろした。

「やってみます」

一番いいのは、魔物をすべて倒すことだ。

しかし、ポセイドンは倒せたものの…騎士団の中には、魔神もいる。

それに、数が半端ではない。

(人々を守る為!そして、何よりも、先輩を守る為だ!)

ジャスティンの体に、力がみなぎってきた。

「行きます!」

ジャスティンは、魔物の群に向かって走り出した。

「ジャスティン!」

ティアナは、そんなジャスティンの遠ざかっていく背中に、手を伸ばした。


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