天空のエトランゼ〜赤の王編〜
壊滅した十字軍より、南東部にある都市――サングラ。

そこは港町であった。ヨーロッパ地区の一番端にあり、東南アジア地区へ入り口でもあった。

その為、旅立ちの街とも言われていた。

しかし、アガルタの民はこう言った。

自由の雫の町と。


昼間とはいえ、活気に満ちている町中を、轟は歩いていた。

半壊した十字軍本部も、勇者ティアナ・アートウッドによって魔物を殲滅した為に、危険な地区にはならなかった。

逆に、再建の為に人手がいるだろうと…仕事を求める人間達が、このサングラの町に押し寄せていたのだ。

魔力が使えなくなったとはいえ、飯を食わないと人は生きてゆけない。

移動手段は、馬車が主流になり、護衛の為に剣士が雇われていた。

建築業者と、剣士の需要は増えていた。しかし、魔力を使わずに、本部を再建することは、今まで以上の労力を使う為に、なかなか作業は進まないだろうというのが…人々の見解だった。

だが、それは…雇用期間の延長を意味する為、人々は甘い汁を得ようと、蟻の如く町に群がっていたのだ。

「フン」

轟は鼻を鳴らすと、大通りから離れ…町の外れにある食堂に入った。

夜は居酒屋と化す食堂内は、昼間なのに…酒の匂いで溢れていた。

いや、店内だけではない。町中に、酒の匂いが漂っていた。

昼間から、酒を飲む人々に溢れている町は異常である。

轟は、そこに怠惰を見た。

人々は、仕事の期待に溢れて笑い合っているが…十字軍本部からの再建に関する情報はどこからも伝えもれていなかった。

なぜならば、十字軍本部は再建される予定はなかったからだ。

のちに、防衛軍の本部となる場所は…まったく違うところだからだ。

本部の移転の情報が、人々に伝わるのは…1ヶ月後となる。

だが、その情報を…今、ここにいる人々は知ることはなかった。

なぜならば、3日後の早朝…サングラの町は、魔物の襲撃を受け、人々は皆殺しになるからである。

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