天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「御姉様」

魔界にあるライの居城の一角にあるテラスから、外を眺めていたフレアは、目を輝かせ、後ろに立つリンネに声をかけた。

「世界は、美しい…」

感嘆のため息をつくフレアに、リンネは呆れていた。

何気ない風景が、美しいとは…リンネは思えなかった。だから、肩をすくめ、

「こんなのが、美しいなら〜世界中に溢れていることになるわね」

ゆっくりとフレアの隣まで、移動した。

城の向こうには、ただ一面の緑が広がっているだけだ。

実世界では、自然の淘汰ではなく…人間によって絶滅させられた動物も生きていた。

そんな動物よりも、数多くの魔物が緑の中で、自由に暮らしていた。

「あたしには…この世界のすべてが、死に向かっているように見えるわ。緑もいずれ枯れ、動物も老いていく。生よりも、死が溢れている世界に」

「違うわよ。御姉様」

フレアはゆっくりと、首を横に振った後、リンネに向かって微笑んだ。

「だからこそ、生きているすべてが美しいのよ」

「フッ…」

フレアの言葉に笑うと、

「そうかもしれないけど…あたし達は、炎の魔物。あたしが触れれば…命など、すぐに燃え尽きてしまう」

リンネは、自分の手のひらを見つめた。

「御姉様…」

そんなリンネの手に、フレアは手を伸ばすと上に重ね、ぎゅっと握り締めた。

「炎は、燃やすだけではないわ。消えそうな命に、火を灯すことだってできる」

「無理だ」

リンネは手を引くと、フレアから離れた。そして、自分を握っていたフレアの手を見つめ、

「あたしの炎は、強すぎる!」

吐き捨てるように言った。

同じ炎の魔物なのに、フレアの手が爛れていた。

フレアは、思わず目をそらしたリンネに向けて微笑みながら、

「御姉様の手は…温かい。誰よりも」

爛れた手を、自らの頬に当てた。

「フレア…」

リンネは、そんなフレアの優しさに…嬉しさを感じながらも、一抹の不安を覚えていた。



< 598 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop