天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「ここか…」

通路の突き当たりが、実験室となっていた。

数日前までは、数多くの繭でいっぱいだった実験室内は、奥にあるただ一つの繭を残して消えていた。

いや、厳密には…中身を失い、皮だけになった繭の残骸が、床に残っていたが、頭がぼおっとして、目も掠れて来たジャスティンには、奥の繭しか見えなかった。

通路よりも、薄暗い実験室内をふらふらと歩きながらも、グレイは日本刀を突きだした。

「リタ…ごめんな…。お兄ちゃんが、お前にしてあげれることは…せめて、目覚める前に…安らぎを与えてやることだけだ」

繭内で培養液の中で、眠るリタに向かって、グレイは日本刀の先を水平にした。一気に、突き刺すつもりだった。

なのに、繭のすぐそばまで来た時、グレイは動けなくなった。

繭に取り付けてある窓から、リタの顔が見えた時…グレイは息を飲んだ。

その顔は、人間だった頃とまったく変わらなかった。それどころか…繭の中の方が、顔色が良かったのだ。

素性を隠し、ブレイクショットのメンバーになったグレイと違い、特区の出身であると素性を証し、苦労してきたリタは…いつもどこか疲れていた。

そんな妹を見る度に、良心が痛んだグレイは…ブレイクショットを抜け、傭兵になったのだ。

「俺は…斬れない。妹を殺せない」

突きの体勢のままで動けなくなったグレイの手から、日本刀が落ちた。

「く、くそ!」

泣きながらその場で崩れ落ちた時、実験室の入り口に、ティアナが現れた。

「!?」

ティアナは、繭の前で床に両手を付き、泣いているグレイを発見すると、中に入れなくなった。

「グレイさん…」

ティアナは、繭の中で目を閉じているリタの顔を見た。

「人間!?」

と、思わず口にしたが、ティアナの頭の中に…ある言葉が浮かんだ。

人は、神に似せて創られた。

しかし、繭の中の女神は…人から…神に似せて創られたのだ。


ティアナは唾を飲み込むと、実験室内に入った。

人に似ているからと言って、見過ごす訳にいかないからだ。
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