天空のエトランゼ〜赤の王編〜
(うん?)

なぜだろうか…。

九鬼は一瞬、刹那の感じが変わったように思えた。

まったくの別人になったように。

しかし、優しく微笑む刹那に、表面上はおかしなところはない。

それに、日頃の刹那を知らないから、その変化を詳しく見抜く程の情報が乏しかった。

だが、この世界…何があるかわからない。

制服で隠した肢体に、緊張を走らせた。

何があっても対応できるように。

表情は決して、変えない。

そんな自分自身の性格に、九鬼は心の中で、苦笑していた。

(いつも、心の中では…最悪を想定しているな)


「どうかした?」

どうやら、ほんの数秒動きが止まったようだ。

刹那の声に、九鬼ははっとした。

(こんなことで、どうする!)

自分に毒づくと、九鬼は表情を和らげ、

「すいません…。ちょっと、ぼおっと……!?」

謝ろうとして、刹那を見た九鬼は絶句した。

「綾子!?」

目の前に、赤星綾子が立っていたのだ。

九鬼に向かって、綾子はゆっくりと微笑んだ。


「綾子?」

九鬼の声に、刹那は首を捻った。

「!?」

綾子の顔から微笑みが消えると、刹那の顔になった。

(どういうことだ?)

九鬼は、周囲の気を探った。

魔の反応はない。


「綾子さんって…」

刹那は生徒会を見渡したが、二人以外誰もいない。


「すいません!」

九鬼は少し声を荒げ、刹那に頭を下げた。

「ちょっと混乱してしまいましたわ」

頭を上げると、笑顔を向ける九鬼を、少し訝しげに見ると、刹那も笑顔でこたえた。

「そ、そうだったの!大丈夫?」


笑い合う二人。


「ところで…」

九鬼は笑顔を止めると、真剣な表情で刹那を見た。

「あたしに頼みとは、何ですか?」

恥ずかしさからのストレートな言葉に、刹那は少し驚いたように目を見開き、九鬼の顔をまじまじと見つめてしまった。

やがて、口元に笑みをたたえたまま…刹那は話し出した。
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