天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「うんしょ!」

岩を掴む左手を外すと、男の子の襟の後ろを掴み、全身に力を込めると、何とか岩場から脱出させた。

「人を運ぶのは…久しぶりだよ」

残りの力のすべてを使い、男の子を川から出す。

水の流れは、比較的緩やかであったことが幸いした。

だけど、水を含んだ服が重さを増していた。身長40センチ程のティフィンには、重労働だった。

「まったく…あたしは、いつから…お人好しの妖精になったのかな」

全身で激しく息をして、自問自答しながらも、ティフィンは川辺まで引きずった男の子を手当てすることにした。

長時間、水に浸かっていた為に…体が冷たい。ほっておいたら、死んでいただろう。

ティフィンは手を当てて、治癒魔法を使おうとして、唖然とした。

先程まで無我夢中だったから、気付かなかったが…男の子の右腕を見て、目を丸くした。

「に、人間の腕じゃない!」

かといって、魔物の腕でもなかった。

この世界にない…メタリックな腕の形をしたものを見つめていると、ティフィンの全身から冷や汗が流れた。

(さっきの魔力は…これからね……!?)

ティフィンは納得した瞬間、遠くの方から、新たな凄まじい魔力が近付いてくるのを感じた。

(同種の波動!?だけど…向こうの方が強い)

事情はわからないが、ティフィンは男の子の右腕を見つめると、

(何とかなるかも)

治癒魔法を施す前に、男の子の右腕に手をかざした。

すると、男の子の右腕を皮膚に似せた物質が絡み付き、メタリックな表面を隠していく。

(間に合え!)

ティフィンは唇を噛み締めた。


数分後、鉄仮面の女達が、ティフィンのいた川原に到着した。

「血は流れている」

ツンツン頭の男が、先程挟まっていた岩場に降り立った。

「探しましょう。あの右腕は、大事な捧げもの。下等な魔物に、奪われるわけにはいかないわ」

鉄仮面の女が消えると、川辺のそばに転がっている岩の隙間に、隠れていたティフィンは胸を撫で下ろした。
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