天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「理香子!」

九鬼はもがきながら叫んだが、理香子には聞こえない。

「装着!」

理香子は、プラチナの乙女ケースを突きだし、変身する。

「フン!」

乙女ブラックは、走り出した。

雨のカーテンを突き破り、舞台から消えた。

「待って!」

理香子も、後を追って消えた。



「一体…どうなっている!」

九鬼は口惜しさから、唇から血が流れる程噛み締めた。



それから、少し時間がたった。

いつのまにか、九鬼は気を失っていたようだ。

雨にうたれ…冷えきった体に、温かい光を感じて、九鬼は気が付いた。

いつのまにか、雨が止んでいた。

「理香子…中島…」

体は冷えきっていたが、鳩尾の痛みは消えていた。

何とか立ち上がると、九鬼は倒れているはずの中島の姿を探した。


「何?」

目の前に、三メートルを越える巨大な狼が、二本足で立っていた。

その腕の中には、中島が抱き抱えられていた。

「中島!」

胸に開いたはずの穴が、塞がっていた。

「そうか…。あなたの知り合いだったのね」

後ろからした声に、九鬼は驚きながら、振り返った。

「お久しぶりね。真弓」

優しげな笑みをたたえて、後ろに立っていたのは、赤星綾子だった。

「綾子さん!?」

九鬼は、静かだが…凄まじい気を綾子から感じていた。

しかし、逃げたり、間合いを開けて構えることもできなかった。

それは、前に立つ人物が…綾子だったからだ。

「クスッ」

綾子は笑うと、狼に抱かれている中島に目をやった。

「彼は…あたし達がつくる優しき人間だけの世界に生きる資格を持った…優秀な人間なの」

綾子の言葉に、九鬼は中島に目をやった。

「優秀な人間…」

九鬼の呟きに、綾子は目を細めた。

「信じられないかしら?彼は…とても素敵な人間よ。少なくても、その辺にいるクズよりはね」
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