天空のエトランゼ〜赤の王編〜
さやかは、知らなかった。

この山々に住む魔物達が、復讐や仕返しをしょうと思わない程の恐ろしい存在がいることを。

いや、ある程度は予想していた。

しかし、そこまでとは思っていなかった。



「お、俺は〜こ、来ない方がいいよ!」

何とか絞り出した輝の言葉に、真由は少し驚いたように目を見開いた。

「だ、だって!襲われないんだぜ」

「…そお」

真由はうっすらと笑みを作ると、

「気楽でいいかもね」

再び前を向いた。

その瞬間、バスは最後のトンネルに突入した。

そこを抜ければ、再び人のテリトリーに入る。


(浩也…)

カレンは、隣に座る浩也の魔力が増しているのを感じていた。魔力を放っている訳でない。

浩也の内側に、マグマのように蠢いているのがわかった。

(赤星浩一は、赤の王と呼ばれる程の…炎の神だったと聞く。さすれば…今のこいつの魔力の増加は…トンネルの向こうにいたはずの魔物達を燃やし…摂取したものか…)

カレンはトンネルに入ると、顔を前に向けた。そして、ある言葉を思い出していた。

(バンパイア)

それこそ…魔王の証。

人と同じ姿をしていながら、人を餌とする神。

カレンの脳裏に、美亜になっているアルテミアの姿がよみがえる。

恐怖とともに…。

震える手に気付き、カレンは無理矢理拳を作った。

(バンパイアだとしたら…こいつも敵になるのか?)

そんなことを思ってしまったカレンに、浩也は微笑みかけていた。

(え!)

優しく温かい視線に気付き、カレンが窓に映る浩也を見た。

(大丈夫…)

窓ガラスに映る浩也は、目でそう訴えていた。

(僕は…敵にはならない)

その言葉に、カレンが目を見開いた時、バスはトンネルを抜けた。

明るい日射しが、カレンの目を細めた。その為、反応が少し遅れた。

カレンが、浩也自身の方を向いた時…彼は、前を向いていた。

カレンは声をかけることができずに、視線を前に戻し、軽く深呼吸をした。
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