天空のエトランゼ〜赤の王編〜
満面の笑みを浮かべた。

(森田部長…)

高坂は、拳を握りしめた。

森田は高坂を向かえるまでの三年間、たった1人で情報倶楽部を運営していた。

いや、歴代の部長がそうだった。

今のように、3人以上いるのは初めてのことかもしれない。

(空っぽの俺が…ここに入れるのは、あなたのお陰です)

目を閉じていた高坂の瞳から、一筋の涙が流れた。

その様子を、薄目で見ていた緑は…完全に目を閉じた。

潜水艦の上では、数多くの漁船が漁をしていた。その行動は、潜水艦に近付く魔物を牽制する役割も兼ねていた。

潜水艦は、海中の魔物に襲われることなく、極楽島に到着することができた。

島の先から突きだした埠頭に、横付けに潜水艦が浮上すると、いよいよ上陸が近い。

1人つづしか通れない狭い入り口から抜け出すと、九鬼は島への第一歩を踏み締めた。

(ここが、極楽島)

半球体の結界に包まれた島。

埠頭の先に、結界があった。

その向こうに、プレハブの建物が見え、さらに分厚い結界が見えた。

(ここだけが…結界の色が違う)

幅2メートルしかない埠頭を歩きながら、九鬼は前方の結界を睨んだ。

「ここは狭いから、降りたらささっと、合宿所の前まで行け!」

前田は、結界を睨んでいる九鬼に気付き、

「心配するな!ここの結界は、出入り自由だ」

「わかりました」

九鬼は頷くと、一気に結界をすり抜けた。

その後ろを、さやか達が続く。

「フン」

ゆっくりと、潜水艦から出てきたアルテミアは、目の前の結界を見て、鼻を鳴らした。

「う」

そんなアルテミアを見て、前田の体が震え上がった。先日の恐怖がよみがえってきたのだ。

(邪魔くさいな)

アルテミアは頭をかき、

(メンバーに選ばれる為に仕方なかったとはいえ…)

ため息をつくと、

(常に、これでは…逆にやりづらいな)

一瞬だけ前田と目を合わせた。

コンマ数秒の瞬きより速く、目を赤くしたアルテミア。

前田の頭から、アルテミアから受けた恐怖の記憶が削除された。
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