先生の青




………知らなかった


そうか……
年の離れたお兄さんがいるって言ってたけど


そういう事情で
年が離れてるんだ



「ま、そういう家で育ってるし
他人の痛みや悩みには妙に敏感なのよ、あの子

だけど、それは恋愛じゃない

悩むあなたに自分を重ねてみたり、助ける事で自己満足してるだけ


市花さんは若くて可愛いんだし
泉から手を引いて
普通の恋愛した方がいいよ」




さ、もうそろそろ戻ろう。
カナさんに言われて席を立った




いろんな事を知り過ぎて
頭の中はキャパオーバー



だけど いつまでも


  ………可哀想に って


彼女の声が離れなかった





病室に戻ると
先生がいつもの顔で


「遅かったな」って言った



先生を見たとたんに
大きな声で
泣きたい気持ちになった



「市花さんとお茶してたの」


カナさんも何事もなかったかのように言う



部屋の中には途切れる事なく


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ………


医療機器の音がしてる



…………もう限界だ。



私は先生の隣に行き
袖を掴んで



「……もう帰りたい」


そう呟いた


先生は私の髪を撫で
優しい声を出した


「そうだな、帰るか」



そんな私たちを
カナさんは微笑みを
崩さず見つめ



病室を出る私に



「今日はありがとう
会えて良かったわ
気をつけて帰ってね」


そう軽く手を振った



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