先生の青






先生が目を覚ましたのは
8日目の昼だった






うっすらと目を開いた先生は
口の動きだけで私に言った








 どうした?大丈夫か?イチ






そんな状態で
大丈夫か?聞かれてもって
泣き笑いをした



先生は自分が事故に遭った記憶をなくしてて



しばらく状況を理解するのに
苦しんでいた





容態が落ち着いて
集中治療室から出て
先生は




「ずっと夢を見てた気がする」



ベッドに横たわり
病室の窓を見つめて




「夢って言っても
ほとんど覚えてなくて
真っ暗だった気もするけど


ただ、フミが一度出てきて
オレに言ったんだ


『泣かせちゃダメじゃん
泉、しっかり頑張んな』って」




私も先生と同じく
窓を見つめて
奇跡ってあるのかなぁって
ぼんやり思った




先生が私に
手を伸ばしてるのに
気がついて



その手をとり
お腹にのせる



愛おしそうに撫でる
先生を見てたら
素直に幸せだと感じた




全てを知ったお父さんに
頬を思いきりぶたれて
お前なんか娘じゃないと
怒鳴られ縁を切られた



先生は後遺症で
左足が不自由になった


退院のメドは全然たたなくて
それでも先生のお父さんが
退院したら二人で住むように
マンションを用意してくれた




こんな状況でも
私は世界で一番幸せで
未来に不安は何もなかった





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