かさぶたと絆創膏

カチリという静かな音がして、目の前に紫煙が霞む。


紫煙の先で使い捨てのライターをテーブルに置いて、頭を無造作に掻く秋さんはお兄ちゃんなんかよりずっと大人に見えて……。


「……失恋したんです」


この人ならきっと、ずっと溜め込んで今にも溢れ出してしまいそうな恋心を……静かに受け流してくれそうだって、身勝手にも思ってしまう。


伝えるつもりの無い温め続けた好きの気持ちを、誰かに知って貰いたかった。



そしたら彼を好きでいた時間、無駄にならないって……思ったから。


「振られたの?」


長い指にタバコを絡めた秋さんが、真剣な眼差しでわたしを見つめている。


「わたしが告白する前に、彼女が出来たんです」


暗い声で呟いたわたしに納得したのか、秋さんは口を閉ざしてタバコを灰皿に押し付けた。


苦しい気持ちを赤の他人に勝手に押し付けたことを後悔し始めた三秒後。


「……報われない恋なんていくらでもあるよ」


慰めの言葉を吐き出した秋さんの横顔がひどく冷たくて、すぐに別物だと悟らされた。


これはきっと、自虐の言葉。


「俺は青が好きだよ」


言い放った声は、悲しいくらい凛と澄み切っていた。
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