【短編】鐘の音が聞こえる
「…思い出した? 奈緒」



優しい声が、響いている。



私は必死に思い出を巡らす…



この公園、…私、知ってる気がする



目の前にいるのは…



「ここで、奈緒に出会った。12年前に」



12年前…?



「俺はここで探し物をていたんだ。そこに10歳の奈緒がひとりでやってきた。」



え…?



「奈緒は泣いていた。」



「私が、泣いてた…?」



彼は頷き、続ける。



「俺はその時、探し物も忘れて、君の涙に目を奪われてたのかもな。」



12年前
ここで
泣いていた…?


「俺は我に返って話しかけたんだ。『どうしたの?』ってさ。そうしたら、奈緒は『ネコが死んじゃったの』って言ったんだ。」



あ…
それはきっと
白い子ネコ…!!



「この公園で、箱に入った捨てネコがいただろう? 俺の探し物はその子ネコだったんだ。いつも通るたびに泣き声がしてて、いつのまにか情が移ってて… 親に何度も頼んで、やっと許しが出て… でも子ネコはいなくなっていた。」



「…そう。その子ネコは確か、他の野良猫に襲われて噛み殺された。私、いつも学校の帰りに可愛がってて…」



そう言ってから、私は自分の言葉に驚いていた。



「…知ってる。」



「え…?」



「ケンが、いつも見てたから…」



ケンが…?



「ケンは… 奈緒のことをいつの間にか好きになっていたんだ。だから、あの時、泣いてる奈緒を見て話しかけたんだ。」








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