小さなチワワの大きな秘密

「──空、好き?」

「好きとは違くて…楽なの」

「楽」

私は空を見てそんな風に思ったことなんかなかった。

(寂しいから?)


「どうして、転校してきたの」

「世の中の不況の波に飲まれちゃってね、転勤」

「…そ、か──…大変なのね」

(優しい子じゃない)

私は彼女が“消される”必要が判らなかった。

(あ)

ふと思い出す。

「鉢月さんの下の名前教えてよ」

鉢月さんは瞬きを二つした。
おどろいた、驚いた。
といったところか。


口を開く。

「瑞穂」


言ってから、鉢月さん…いや、瑞穂は恥ずかしそうに空を見上げ直した。




「瑞穂…私の前の学校にも居たよ。すごい優しい子だった」

「…うん」

瑞穂は手すりを握り締めた。

「あー、もうすぐ予鈴だね。戻ろ」

「あ…の、」

私が振り向くと、瑞穂はまた目を細めた。

「また、此処で話してくれる?」


空は青かった。



「当たり前じゃん」


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