香る紅
私が、許さないなんて言うと思ってるの?

だから、顔も上げずにそんなこと言うの?

「もう、怖い思いなんてさせねぇから、嫌な思いもさせねぇから、泣かせねぇから、笑わせるから!・・・だから、俺と、付き合え。俺のそば、離れんな。その代わり、ちゃんと守ってやるから。」

「へ?」

・・・今、何ていった?

私、緋凰が優しいから、また、自分に都合のいい空耳を、聞いた?

突然すぎて何が何だかよくわからなかった。

「織葉は、俺とそうなるのを自分が許さないって言ってたけど・・・。そんなの、俺が許さねぇ。やっぱり、我慢できねぇ。いいから、いつもどおり、俺の隣にいろ。」

そこまで言うと緋凰は、これでもかとばかりに腕に力を入れてきた。

「緋凰・・・苦しい・・・。」

そう訴えても、力を抜いてはくれない。

苦しいけど、でも、緋凰があったかくて、夢でも空耳でもないんだってことが、わかった。

浅い深呼吸をして、さっき緋凰が言ってくれたことを反芻する。

夢じゃ、ないんだよね。

嬉しくて、今すぐにでもはい、って答えてしまいたい自分がいる。

けど。

「緋凰、ごめんね、今までずっと、昔の約束を守らせて。」

緋凰の体がびくり、と震える。

これだけは確認しなきゃいけない。

緋凰が昔の約束に束縛されてそんなことを言っているんじゃないってことを。

「昔の約束を守ろうとして、そういうことを言ってくれてるんだったら、無理しなくていいんだよ?」

私の言葉に、なんだかいつもの緋凰のスイッチが入ったらしくて、緋凰ががばっと顔をあげて、いつもの怒ったような表情で私を覗き込んでくる。

というか、緋凰、本当に、怒ってる?

「昔の約束じゃねえよ!俺が織葉を好きだから!ずっと隣にいてほしいから!だから言ってんだよ!織葉は変な心配しすぎなんだよ!俺が言ってんだから、はいって言ってついてくりゃいいんだよ!」

そこまでいうとなんだか我に返ったようにまたしゅんとした顔に戻って、

「悪ぃ・・・。でも本当に昔の約束のせいなんかじゃねぇ。織葉がいいんだったら、昔の約束、永遠の約束に変えてやる。信じてくれ・・・。」

また私を抱き込んで、胸のあたりの布団に突っ伏してしまった。




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