香る紅
玄関に行くと、今にも車が出てしまいそうな状況だった。

危なかった・・・もう少しで置いて行かれるところだった・・・。

「織葉さん、見事な滑り込みセーフでしたよ。」

そう面白おかしく運転士の逆井さんは話してくれる。

明るくて楽しいこの人は、何にも一族のことを知らない人だから、ばれないようにしないといけない。

「ありがとうございます」

笑顔、気をつけなきゃ。

具合悪いことを悟られちゃいけないもの。

努力の甲斐あってか、逆井さんはちっとも気がつかないでいてくれた。

「「「行ってらっしゃいませ」」」

屋敷の何人かの人たちに見送ってもらって、車は学校へと出発した。

車は、運転席・助手席と後部座席の間にガラスの壁ができている。

だから、どんなことをしゃべっても、逆井さんに聞かれることはない。

けど、緋王が押し黙っていたから、自然と私も黙っていた、そんなとき。

「・・・休めっていっただろう。」

ずっと不機嫌そうだった、私の血をたくさん飲んでつやつやした緋凰がやっと、ぶすっと口を開いた。

…やっぱり、来ない方がよかったのかな、なんてこと、考えてしまう。

「だって・・・緋凰は、学校に、行くじゃない?」

「俺は俺、お前はお前だろう?」

緋凰からの拒絶の言葉が、甘えた私に矢になって突き刺さる。

「私・・・ついてこない方がいい?」

卑怯な質問。

優しい緋凰に、そこまで言わせちゃいけないのに。

「……。」

案の定何にも答えないで窓の外を眺めている緋凰に

「ごめんなさい」

それだけ伝えて、気まずい車内の空気に耐えることにした。







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