黒猫前奏曲
置くだけ置き、言うだけ言ってマリアは何食わぬ顔で帰って行った。あまりにも唐突な終わりに3人はマリアを茫然と見つめたまま、マリアが去ってもしばし時が経つのさえ忘れ、入り口を見つめていた。

「なぁ、この箱開けてくれないか?」

弥生が、道成の前に箱をずらすのと同時に、やっとプレハブの時は動き始めた。

「あぁ」

道成も視線を白い箱に向け手を伸ばし、黒と白のチェックのリボンを引っ張り外す。テープも外し、恐る恐る中を確認する。

「ケーキだ…それに…」

「それになんだ?」

道成の言葉の先を促すかのように、久志が急かす。

「ストラップだ」

「ストラップ?」

意外な答えに久志は驚くが、道成が持つ手にはフェルトのようなもので作られた立体的な黒猫が、青いリボンを首輪のようにつけ、ちょこんと座っていた。

「かっわいい。これ手作り?」

弥生も会話に入り、ストラップをよく見ようと手を伸ばすが、道成が高くあげたことによって阻止された。

「弥生、わかってやれ。好きな女からもらったものを他人には触らせたくないだろ。しかも手作りなら尚更じゃないか?」

「あぁ。男の醜い独占欲ってわけですね」

まるでポンと音が聞こえてくるように手を叩き弥生は納得した。

「でも、てっきり手紙でも入ってるかと思った」

弥生のガッカリした表情に久志も同意した。マリアのことだから、直接伝えるのはきっとない。あるなら、間接的に伝えるはずだ。

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