短編集『手紙』
転がり落ちる小石は、いつしか風に煽られて視界から消えていく。このまま一緒に堕ちて行けたのなら、それはどんなに楽な事だろう。

遥か下を流れる清流は既にただの線でしかなくなっていて、後戻り出来ない現実が、寧ろ他人事のように感じられた。


その足元から迫り来る魑魅魍魎。虚ろな眼差しの中に潜む容赦無い殺意が、武者震いを引き起こさせる。

足で奴等を蹴り落としながらこの崖を越えたら、その先には広大な樹海が待っている。

昼なお暗いそこを抜けるにはより強大な敵と対峙し、完膚無き迄に退治しなければならない。



 攻撃呪符はあと四枚、薬草も二回分か…。



しかし、こんな時程胸が高鳴る。えも言われぬ高揚感でゾクゾクする。俺の技で、奴等を一網打尽にしてやるんだ!

怯んでいる暇はない。躊躇っている余裕もない。ただ立ち向かい、この妖刀文殊でバッサバッサと斬り進め!

樹海の中には『命の泉』も有る。目を凝らしていれば『妖精のほこら』が見つかるかも知れない。一番困難な場所だがそれだけに、癒しのアイテムも沢山転がっている筈。

そこを抜ければあとは原っぱ。雑魚しか居ない楽勝地帯だ。そして酉魔城の天守閣に有る『皆伝のあかし』を奪い取ろう。



 だが気を付けろ?



経験値が足りないと、魔獣『落堕淫』から奈落の底に突き落とされるぞ!?

困難が大きければ大きい程、それを越えた時の充足感は計り知れない。この腕が、この足が、闘いたいと騒ぎ出す。

全身の毛は逆立ち、血はたぎり、みなぎる力が眼を輝かす。

何も俺を阻む事は出来ない。俺には確固たる信念が有るからだ!

さあいざ行かん!
絶体絶命のその先へ!!



トリマースクールに通うあなたへ


《おわり》


< 2 / 76 >

この作品をシェア

pagetop