短編集『手紙』
「いらっしゃいませ、お一人でらっしゃいますか?」

その声に振り向いた女性の顔を見て、私の鼓動は周りの人に聞こえる程高鳴った。

きれいに鼻筋の通った顔立ち。

透ける様な白い肌。

吸い込まれそうに澄んだ瞳。

小さくて肉厚な、桜の花びらと見紛うばかりの唇。



女性の周りに有る空気はその美しさを照り返し、まるで光を帯びているかのようだ。

女性は私の胸の花を見ながら手を振った。

「心から愛する人が、こんなにも美しい女性だったなんて!」想像を遥かに越えたその美貌は、神々しくさえあった。



私は女性のテーブルに座り、眼鏡を外して挨拶をする。満面の笑みを浮かべて女性はこう言った。

「お待ちしていました。彼女はちょっとナイーブで、私が一緒に居ないと駄目だと申しまして……」


え? 何? この人じゃないのか?……なんだ、盛り上がって損した。


心の中でつぶやく私は不謹慎そのものだ。


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