ことばにできない
退院の日の朝、私は再び個室フロアに行った。
どうしてもあの人に会いたかった。

記憶にある個室の前まで行ってみた。

名札がはずされ、ドアが開いていた。
顔見知りの看護師が、一人でベッドを片づけていた。

「ここの方、退院なさったの?」

気安く声を掛けた私に、看護師は歩み寄ると、

「そうじゃなくて…ゴメンね」

そう言うなり、目を潤ませてドアを閉めた。

  *   *   *
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