危険な彼女
奈津の叫び虚しく………




待ち遠しいときは長く感じるというのに、きてほしくない時間は異常に早くきてしまうのだった。



「まあ、もちろん逃げるがな…」




こそこそと奈津は教室を後にした。



敵地に潜入したエージェントのごとく、壁にぴったり寄り添いながら一カ所一カ所にご主人様がいないことを確認する。




「よし、いないな………」


「誰が?」



「そんなの決まってんだろ。

あのわがまま………」



「へぇ………


わがまま…何?」




背筋が凍るようだった。


ゆっくりと振り返ると、そこには桜がいた。




「えっと………


わがままなとこがかわいいよなぁって………」





そんなとこ褒めるやつがどこにいるというのだ。



自分の下手な言い訳に思わず、自己嫌悪に陥った。




「ふ〜ん………

わがままなとこがかわいいんだ。
じゃあ、鞄よろしく」



「なっ、何でおれが!?」


「あら?

わがままなとこがかわいいんでしょ?」




そう言って桜は微笑んだ。



その笑顔に奈津は一瞬怯む。





黙ってればかわいいんだ、黙ってさえいれば。




桜は、何もしなければ絶世の美少女に他ならないのである。
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