モノクロ
初めて食べた牛丼は……おいしいと思った。

久しぶりに誰かとご飯を食べたから?


……この男と一緒だったから、ってことはない……よね。


隣をチラッと見上げたけど、男は前を見ていて私の視線には気付かなかった。




「何であんなトコに一人で立ってたんだ?」

牛丼屋を出て、ゲーセンに向かってる途中、男が聞いてきた。


……何でもいいから変わりたかった。

誰でもいいから傍にいて欲しかった。


だって、人はいつ死ぬか、わかんないんだから。



「……別に」

またも吐き出されたこの言葉。

咄嗟にうまい嘘の一つも出てこない。


「マイは“別に”ばっかりだな」

男……じゃなくて、ケンジはそう言って笑った。


この笑顔を見せるから、私は、この男に気を許し始めているんだろうか。





ゲーセンに着いて、ケンジに促されるままゲームで遊んだ。

カーレースにエアホッケー。


プリクラ機に入ろうとするのは必死になって止めた。


だって、この男と思い出みたいな物を残してもしょうがないし。



あ、あれかわいい。

別のコーナーに行く途中に通ったクレーンゲームコーナーで、私は思わず立ち止った。

ケースの中に入っているのは、小さな白いうさぎのぬいぐるみ。



「何? 欲しいの?」

私が立ち止ってることに気付いたケンジが振り返った。


「……別に」

素直に欲しいと言えない私。


「取ってやろうか?」

「いらないってば。……トイレ、行って来る」


逃げるようにその場から離れた。

そんなに欲しそうな目、してたのかな?
< 8 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop