耳元で囁いて




彼は、一瞬だけど眉をひそめたように見えた。


「そ、それじゃ。」

私は、早くこの場から離れたくてしかたなかった。


「待て。」
けど、彼はそれを許さなかった。


彼の低く、甘い声はまるで、金縛りにでもあったように私の体を止めた。


「これ書いた本人に言っといて...こんな事、自分で言えって、じゃなきゃ俺はあんたの気持ちは見ないって。」



肩が震える。
さっきの声とは違っていて冷酷で、悪魔のような彼がそこにいた。



でも、私には効かない。それよりも恐ろしい事があるから。



あんな言葉を彼女に....佐渡さんに浴びせればきっと、私にその仕打ちが返ってきて、私は1人になるだろう。


それだけは、避けたかった。



「そんな事...自分で言って下さい。私は、それを渡す事だけ頼まれたんだから...その後は私は知らない。」



無責任な言葉。
けど、これ以外私の逃げ道はない。


「ふ~ん、あっそ。分かった...アンタはそうやっていつまでも逃げるんだね、1人にならないようにビクビクしながら周りの機嫌をとり続けるんだね...でもそれって、苦しくない?」



彼に言われた言葉は重く、私の中に入りこんできた。
今の私には彼が何故、そんな事を知ってるのかは気にならなかった。



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