ショコラ
8 好きな人
 何か言い合っている二人を見ながら、
私はじりじりと後ずさりをした。

詩子さんが怒鳴るようなしぐさをするたびに、
マサさんが彼女を目に捉えて腕を掴む。

そのまなざしは必死で、
関係の無い私の方がドキドキしてしまうほど。

今まで、その優しさで甘やかせてくれたから、
私は勘違いしていたのかも知れない。

マサさんは、きっと待っててくれる。
私の事をもしかしたら好きになってくれるのかも知れないって。

だけどこの光景は、私のそんな甘い考えを打ちのめした。

良く考えれば、
マサさんと詩子さんは名前を呼び合うほど仲が良くって、
同じ職場で働いてて、私なんかの入る隙なんて、最初から無かったのに。


「あ、和美ちゃん」


そのまま消えてしまいたかったのに、先に詩子さんが私に気づいた。
マサさんの手を振り払って、私の元へ走ってくる。
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