グッバイ・マザー
 「何か食べる?って言ってもラーメンくらいしかないけど。」
 伯母からの有難い提案に、乗らせていただく。
「食べる。ハムとネギのっけて。胡椒大盛りで。」
「はいはい。」
伯母は笑ってキッチンに向かった。
 料理嫌いの伯母は滅多にキッチンに立たない。立派な多機能のシステムキッチンはモデルルームのようにピカピカなままだろう。
 伯母の作ってくれたラーメンをすすり、何でもない他愛のない会話をしていると、さっきまでの出来事が嘘のように思える。
 僕は隣に座ってビールを飲む伯母を見た。ふんわりとカールのかかった長い髪。目鼻立ちは母同様はっきりしているが、母の張りつめたような美しさとは違い、伯母のは周りを包み込むような優しさを備えている。
 たった一人の姉を亡くした伯母の悲しみは僕の想像以上に深いものだと思う。しかし、今日は父や姉と一緒に、気丈に弔問客の応対をし、今は僕を家に迎え入れてくれた。
 本当は独りで母の死を悼んで居たかったのかもしれない。だが僕を家に入れてくれる。笑ってくれる。それは彼女の強さだ。
 彼女が母親だったらと何度思ったことだろう。何度願ったことだろう。
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