グッバイ・マザー
 病院に着くまでの間、タクシーの中は重苦しい沈黙に包まれた。
 「もう、駄目なの?」
息苦しくなって口を開いてみても、父は押し黙ったままだ。

 程なくしてタクシーは病院に到着した。ロビーを通り抜けてエレベーターに駆け乗る。
 ボタンを押す父の手は、少し震えていた。
 四階で降り、母の居る病室を目指す。廊下の突き当たりを右。そんなに見舞いに来ていた訳ではないが、その時は目を瞑っても歩けそうな気がした。

 病室には、主治医の先生と看護婦さん、そして伯母と姉の四人。動かなくなった母を取り囲んでいた。
 「お母さん!お母さん!」
 姉は泣きじゃくり、母の体にしがみついていた。
「遅かったか…。」
その光景を目の当たりにして、状況を悟った父が隣で力無く呟いた。伯母も脇でおえつを漏らしている。
 先生と看護婦さんすらも、その場に居た誰もが、母の死を悼んでいた。
 そう、僕一人を除いては。

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