グッバイ・マザー
 話をしているうちにも、タクシーは目的地へと確実に近づいていた。
 住宅街を抜けて、両脇に古木が立ち並ぶ坂道を登っていくと、不意に視界が明るくひらけ、眼下に一面の海が広がった。
 太陽光を水面が反射してきらきらと光り輝き、その遠くの沖で白い漁船が小さく揺れているのが見える。
 雲一つない晴天に青々とした山々の稜線がよく映えて、その景観の素晴らしさに出会えただけでもここまで来た価値があったとさえ思えた。

 母が生まれ育った土地。
 緑は深く濃く生い茂り、空はどこまでも高く澄み渡り、そして海はひたすらに碧い。

 むせかえる程の生命力に溢れるこの地で、母と伯母は何を見て育ったのだろう。
 ここがあまりにも美し過ぎて、僕は余計に悲しくなった。
 
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