伸ばした手の先 指の先
12歳、11月

北に輝く満月


 3年の先輩が引退した。

 思い出の少なかったあたしは泣くこともしなかった。

 ただ。

 ――あと、1年。

 心のどこかで、カウントダウンが始まった。

 

 ペダルを踏むたびに、風が頬を撫でていく。

「おーい」

 後ろから追いかけてきた声の主を待つために自転車をとめる。

 大辻先輩だった。

 ここのところずっと、私に話しかけてきている。

 おかげで恋煩い気味なのに。

「先輩」

 あたしの前を行く背中に、呼びかけてみた。

「ん?」

 ここで引いたら、おそらく後悔するだろうから。

「あたしのこと、どう思ってるんですか」

 気になっていた。

 もしかしたら――と、うっすら期待さえしていた。

「まだ……」

 振り向いた表情は、空気を裂いてしまいそうに鋭かった。

 思わずたじろぐあたしに、はっきりと彼は言った。
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