神楽幻想奇話〜鵺の巻〜
…それから数時間後の事。

賑やかな住宅街から少し離れた場所に立派な屋敷があった。
和風な作りで、大きな日本庭園が中にあり、池には錦鯉が飼われている。

その屋敷の中に、先程透に話しかけた男がいた…。

実際サラリーマンかどうかは分からない。
一見して、サラリーマンのように見える男である。
少しよれたスーツにカバン、メガネをかけた30前半の男。
誰から見ても、そうとしか見えない。
そんな風体をしていた。

男は屋敷の中に入ると、長い廊下を渡った先にある茶室へ向かった。

その扉の前で歩みを止めた男は、茶室の中へ声をかけた。

「御館様、御影(みかげ)です。報告に参りました。」

しばらくの間をおいて、中から返事があった。
その声は女性のものだった…。

「おお、御影か…久しいのぅ、入りや。」

御影と名乗った男は、失礼しますと言って、ゆっくり障子の扉を開けて中へ入っていった。

そこには白地に豪華な刺繍が施されている着物を纏った女性が、きちっとした正座で座っていた。
年齢は定かではないが、高齢であることは間違いない、だが、艶のある肌としっかりとした物言いが、若い印象を持たせていた。
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