この空の彼方

子ども




部屋でぼんやり過ごしていた灯世を、侍女が呼んだ。



「灯世様、辰清様がお呼びです。」


「行きます。」


「なんでも、お団子を差し上げたいとか。」



侍女はこそりと灯世に耳打ちした。



「まあ。
…泥団子なら毎日食べているのに。」



侍女はクスクスと笑った。



「わたくしも、毎日頂いております。」


「おかわりまでさせられますよね。」



侍女は隣で何度も何度も頷いた。



まったく、と灯世は笑って、中庭に降りた。



砂場では、辰清____灯世の息子が一心に手を動かしている。



「三歳になってやっとお外で遊べると喜んで…。
毎日こうやって遊んでいます。」



辰之助付きの侍女は声を潜めて言う。



「お勉強なんて、そっちのけですよ。」



灯世は苦笑した。



まったく、もう。



足音に気付いたのか、辰清が顔を上げた。



「母様!」



そう叫んで駆けてくる。



その手は泥で真っ黒だ。




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