この空の彼方
「お仕事中?」


「はい。
お手伝いを言い付かって。」



ふーん、と千歳は不満そうだ。



「最初こそ守護者の娘だってちやほやされてたのに、いきなりこんな扱いか。
気に入らないな。」



灯世はくすりと笑った。



「仕方ないですよ。
私、結果出せてませんから。」


「そうなのかぁ。」



納得いかないなぁ。と呟いて、千歳は腕を組んだ。 



「まあまあ。
…あっ、座ってください。」



空いていた席を指すと、千歳は嬉しそうに顔を綻ばせた。



「ラッキー、空いてるんじゃん。
こんなご馳走にありつけるなんて滅多にないからな。」



ヨダレが出るわ、と手を擦り合わせ、千歳はそそくさと席の方へと走っていった。 



灯世は笑って見送る。



座った途端、千歳はそばにあったものを引っ掴むようにして口運んだ。



半分呆れながら、酒を持って後に続く。



「これ、飲んでください。
このお酒も高級品なはずですから。」



下座なのをいいことに、灯世はこっそり徳利を一本渡した。



「やったね。」



ニヤリと笑うと、千歳はとくとくと酒を注いだ。



ぐいっと仰いだ拍子に、ポトリと酒の雫がこぼれ落ちる。



それをもどかしそうに拭って、千歳はもう一度酒を注いだ。



失礼しますと声をかけて、千歳から離れる。



空いた皿をいくつか抱えて廊下に出ると、芦多に出くわした。



「こんばんは。」



身体を避け、道を譲る。



今夜の主役がまた遅いことだ。



早く案内しなければ、辰太郎の機嫌が悪くなるだろう。



「どうぞ。」



手で指し示すと、芦多はその方へ視線を走らせた。



「ああ…。」



どうやら千歳を見つけたらしく、眉を潜める。



「あいつはまたあんな。」


「楽しみにしてらしたみたいで。」



灯世は思わず笑ってしまう。





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