千里ヶ崎の魔女と配信される化け物




台所に行くと案の定、香蘭さんが洗い物をしていた。

蛇口から水が流れる音と、食器をスポンジで磨く音が聞こえてくる。

足音で気付いたのか、香蘭さんがくるりと振り返った。

一瞬、なにかにとても驚いて……けれどすぐに、にっこりと微笑んでくれる。

「あら皆川さまぁ。どうかなさいました?」

「いえ。なんか手伝うことないかなと思ってですね」

「あら。あらあらあらぁ、よろしいんですよぅ、そんなぁ」

首を小さく細かく横へふるふる振りながら、香蘭さんの手は動き続ける。

ふわふわした口調に似合わず仕事はてきぱきこなすのが彼女だ。

気付いたら朝早く起きていて、夜も誰より遅くまで起きている。

いったいいつ寝ているんだっていう生活を送る彼女は、どう見たって十代半ば。学生ぐらいにしか思えない。

千里ヶ崎さんはこんないい子を捕まえて〝人形〟なんて言うんだから、鬼畜だ。

「いや、そんなわけにいかないですよ」

と、僕は頬を掻いた。

「香蘭さんの料理、美味しかったですし、なによりごちそうになったんですから、これくらい手伝わせてください」

「あらあらあらぁ。うふふっ、お気持ちだけいただきますねー」
< 17 / 34 >

この作品をシェア

pagetop