千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
思わず苦笑した。

彼女はその「だけさ」という言葉から、今まで何度、想像の世界へ旅立ったことだろう。

想像とは未知への扉を開く、非現実への旅行である――とは、彼女の放った名ゼリフだ。

「実はね皆川くん、昨今の流行りに、私もいくらか触れてみたんだよ」

と、彼女が会話を展開していく。

一週間前も昨日も今日も、彼女は長ソファーにぐったり、横たわっている。まるでじゃなく、まさに昼行灯の体を辞さない彼女は、

「ケータイ小説というものに」

「ぶふっ」

超然とした雰囲気からは想像しにくい単語を吐き出した。

黒のドレスピースに、深窓の姫君を思わせる漆黒の長髪、切れ長の麗しい瞳に、白い肌。

千里ヶ崎の館といえば有名なここの主人は、言ってしまえば、文明に取り残されたような人だ。頭はいいのに、機械に弱い。テレビの予約録画ができない人の、典型だ。

それが、ケータイ小説ときた。

「あの、千里ヶ崎さん」

「なにかな」

「ケータイ小説というのは、」

「ケータイ――すなわち携帯電話で読む、ネット上に公開された小説、あるいはその書籍化されたものを言うのだよ。知らないか?」

「いえ、知ってます」
< 2 / 34 >

この作品をシェア

pagetop