千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
千里ヶ崎さんは、手帳を開く気配がない。

「あの、それ、『読む』ものじゃないってどういう、」

「おさらいすると、標的がいるということは、化け物には目的があるわけだよね。もっとも、その目的は術者の目的だろうけどもね」

「……」

遮られた。教えてくれるつもりは、ないらしい。

ソファーの肘掛けからはみ出した足が、ぱたぱたと揺れている。

彼女の余裕が、不敵さが、僕にはなんだか、もどかしかった。

「千里ヶ崎さん……」

「なにかな」

「なんで読まないんですか」

「……」

「なんで今日は本を、読まないんですか」

「…………」

千里ヶ崎さんは、

ふふ――と。

笑った。

「皆川くん、化け物に襲われないためには、どうすればいいと思う?」

「は?」

「化け物はケータイ――媒体から配信されてくる。なら、その媒体を使用しなければ化け物に襲われることはない。君子危うきに近寄らず。理だよ。つまり、そういうことかな」

「だから、本は読まないんですか」

「ああ」

そして、僕を見た。

「とてもじゃいけどね、私を襲おう襲おうと待ち構えている化け物の前で、そんなことはしないよ」
< 26 / 34 >

この作品をシェア

pagetop