僕らは、何も知らない
    ◆  ◆  ◆

 「たーかしっ」

教室に入ってすぐに、後ろから名前を呼ばれ肩を叩かれた。
 犯人は親友の空知昴(そらちすばる)。
同じ中学に同じ野球部、席も前後ということで、毎日のようにこいつと絡んでいる。

 「……ぐっもーにん」

取り敢えず挨拶を返すと、昴は詰まらなさそうな顔で話し始めた。結構テンションの移り変わりが激しい奴である。

 「今日は朝から席替え発表だぜぇー、どう思うよ? アトムは実に残酷だよ」

アトムとは担任の先生のことで、髪型が『鉄腕アトム』に似ていることから付けられた、生徒しか知らない渾名である。あまり嬉しいものではないと思うが。

 「隣は唯谷サンがいーな。超モデル美人」

この面食いめ。

「なんか唯谷って裏が有りそうで近寄りがたいんだな、俺としては」

 唯谷愛子(ゆいたにあいこ)。
 文武両道で矯正な顔立ち、ふわふわのセミロングでかなりモテる。だが俺は、言ってしまうとあまり興味がない。

 「えー、じゃあ天は誰が良いんだよ」
「保健のセンセに決まってんだろ」
「お前なあ……」
言うまでもないが、勿論嘘だ。いや、でも確かに俺自身、大人のジョセイは良いと思っている。

 「……お、委員長だ」

ひっつめ前髪にサイド三つ編みの、文学少女系のクラス委員長が黒板に紙を貼っていた。目を凝らしてみると(視力は両目Cだ。ちょっと危険)、それは席替えの籤引き結果だった。

 「ひゃっほう、美人頼む!」

同じくそれに気付いた昴は光の如く黒板まで走っていった。

「…………」
お前も人の事言えねえじゃんかよ。
呆れつつ、俺も黒板に近付いた。

 「んー」


紙の隅っこに、『神崎』と書かれた枠を発見した。
おおう、窓際。特等席だ。

 隣は──、
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