君が君を好きになって。2
一、 ピアノと碧

理由は心に



「合唱コン?」

文化祭の熱は嘘のように冷め、菜束たちはまた新しい季節ネタに振り回されようとしていた。

「て言ってももう曲決まってるしなぁ…。なっかのトコ…6組何だっけ」

「私?手紙」

「そっかーぁ。私はね、時の旅人だよ」

「あ、めぐるめぐる…ってやつ?」

「そー。伴奏決まんなくてさぁ」

「へぇ」

10月。
衣替えも終わり、菜束たちは来る冬に向けて話題を巡らせていた。

「あ───────!お腹空いた!じゃねーっ」

由佳がぶんぶんと手を振って走り去る。
元気だなぁ、と菜束は意識を遠くにやりながら鏡に映る自分を見つめた。

笑っても、泣いてもいない顔。
他人に、心の内を理解して貰えない顔。

そう考えたら菜束は腹が立って、でも鏡の中の自分は怒っていなくて、イライラして。

鏡に水を掛けた。



「うわ、え、え?なっかどうした?」

「あ…ううん」


隣で驚いた蛍への返事は、


鏡の中の自分に。





「あ、じゃ私お昼約束してるから放課後ね」

蛍がまた驚く。

「えー、誰と?約束とかって珍しいね」


菜束は自分で頷いた。

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