だから君に歌を
「それにしても本当に、どうして慎太郎が千夏さんを?」

「あーそれは、」

「姉ちゃん千夏って名前でわかんない?京平の妹だよ」

またしても慎太郎が千夏の言葉を遮って答えた。

亜紀はさっきよりも更に大きな声で「え!」と目を見開いて叫んだ。

亜紀の真っ直ぐな視線が突き刺さる。

「あなたが…あの、千夏さん…?」

「そうだよ。あの、例の京平の妹なんだよ。びっくりしただろ?姉ちゃん全然気がつかないんだもんな」

「そっか。そうなんだ…あなたが」

亜紀はとても懐かしいような表情で微笑んだ。

こんな人だなんて、
ずるい。

もっと嫌な女だったらよかったのに。
それこそ香織みたいな浅ましさを身に纏ったようなオーラを放つ女ならよかったのに。

亜紀の笑顔には千夏の戦意すら失わせるものがあった。

聖母の微笑み。

まさにそんな例えがぴったりの。
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