だから君に歌を
「千夏ちゃんっ、おかえり」

家の中へと入ると、掃除機を抱えた亜紀が顔を出した。

「千夏ちゃん今日夕飯作るの手伝ってもらえない?オムライスなんだけど、」

そう言われて千夏は自分の足と手を見つめる。

台所に立つのは杖が必要な千夏には無理そうだった。おまけに、千夏の手は、前のようにギターを弾くことは無理だと医者に言われるくらい、機能が低下している。

料理のように、繊細な作業は、
もともとの料理の腕前は別として、
困難極まりない。

「卵溶いたり、ケチャップ乗せるだけでいいの。ね?駄目かな?お願い」

けれど亜紀はいつになくしつこかった。

台所に千夏用の椅子を用意し、
オムライス作りに取り掛かる。

千夏は椅子に座りながら亜紀のすることを見つめていた。

亜紀の手がリズミカルに包丁の音を響かせる。
玉葱のみじん切りを亜紀はとても楽しそうに行っていた。

その姿に京平が重なる。
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