俺が大人になった冬
「そ、そうじゃなくて!」

「ゲンって女と話すとき、スッゲー優しい声で話すのな!」

「そ、そんなことねぇ!」

イジリまくられ、慌ててドモリっぱなしの俺。

「なんたって『あんたのこと考えてた』だし!」

谷がニヤリと笑いながら、芝居がかった感じで俺の口調をマネする。

谷の言葉で、熱を持っていた俺の顔が更に熱くなる。『顔から火が出そうな思い』とはまさにこういうことだと思った。耳まで熱い。

「あ~! も~! お前ら、マジうぜぇ!」

無駄な抵抗だと分かっていても、真っ赤になっているだろう顔を見られないよう、被っていたニット帽を両手でグッと下げた。

その後しばらく奴らにイジられまくったのは言うまでもないが、仲間の前で好きな女(ひと)の話をするのも『悪くない』と思った。

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