俺が大人になった冬
「元くんの胸の音……優しいわね……」

「……」

「それに、とても温かい」

ポツリ、ポツリとこぼれる彼女の言葉は、なんだか彼女の寂しい気持ちを表しているようで、切なくなった。

「大好きよ。元くん……」

彼女は俺の胸に顔を埋めたまま震える声で言って、俺にギュッとしがみついた。

ドキッとした。

彼女の言う『好き』は、男としてのことではないかもしれない。

それでも嬉しかった。心にジワリと温かい感覚が広がる。

「……」

思わず彼女の名前が俺の口からこぼれた。

呼び捨てで彼女を呼ぶことははじめてだった。
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