俺が大人になった冬
「せっかく入れてくれたのに、冷めてしまったわね」

彼女が入れ直してくれたコーヒーをお揃いのカップで飲みながら、彼女の好きだというパンを食べた。

彼女は泣いて目を腫らしてはいたが笑顔だった。

俺は涙が止まらず泣きながら食べた。

「なんで笑っていられるんだよ」

鼻を啜りながら聞くと

「元くんがいてくれるから」

と、なおも幸せそうに彼女は笑った。

彼女の好物のパンの味は、涙でしょっぱくて、うまいんだかなんだかよく分からなかった。

俺はガキだ。

どうしようもないくらい。相当に。


──大人になりたい。

彼女を守れる、大人の男に。

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