俺が大人になった冬



「街はクリスマスばかりで騒がしいし、今日は少し遠出しない?」

いつもより早めの時間に待ち合わせ車に乗り込むと、早速のように女が言った。

「遠出って?」

「鎌倉なんてどう?」

「楽しそうだね」

「じゃあ、決まりね」

と、女は俺に向かってとても嬉しそうに笑い、車を走らせた。
鎌倉までの車中、俺たちはなにかを話して盛り上がるわけでもなく、いつものように時々ポツリ、ポツリとした会話をするだけだった。

女はあまりおしゃべりな方ではないし、俺もどちらかといえばそんな感じで。

でも不思議と、会話がなくても重苦しい気分にはならない。

正直、エリナといるより気は楽だ。

おそらく体の関係がない分、この女の前では特に無理にムードを盛り上げようと演じる必要もなく、変に気を遣うようなこともしなくていいからなのだと思う。

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