俺が大人になった冬
「あ、ありがと」

「気に入らなかった?」

浮かない顔の俺を見て、彼女が不安げな表情を浮かべる。

「……すげぇ嬉しいよ」

あんな安物、彼女はきっと喜ばない。

「金持ちなんだな」

「え?」

「俺はこんなの買えねぇから」

こんなことを言ったら、彼女はきっと傷ついてしまう。

彼女はなにも悪くない。

俺が勝手に卑屈になっているだけなのに……

「ごめんなさい」

彼女はそのまま俯いて言葉をなくしてしまった。

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