色、色々[短編集]


「お前、何してんの?」


俺が彼女、吉山に声を掛けたのはおそらくこの日が初めてだった。

吉山は、俺の言葉に閉じていた目をゆっくり開けて、そしてゆっくりと俺の方に視線を向ける。
大きな瞳は、長い睫によってより大きく見えた。


「……えー……と、浜崎くんだっけ?」


だっけ、じゃねえよ。同じ学科の同じクラスになって半年以上が経つって言うのに何で未だに曖昧なんだ。

俺は吉山の言葉にはぁっとため息をついた。

吉山はそのまま返事を求める様子もなくむくりと起き上がり、そのまままだ夢を見ているかのようにぼーっと座ったまま。


「取りあえずそんなところで何してるんだよ。踏まれるぞ」


危うく踏みかけた俺の台詞でもないかもしれないけれど……俺はそのまま立ったまま吉山を見つめた。

――こんな奴だったっけ。

特に俺は吉山のことを知っている訳じゃないけれど、それでもこんなことをするような女だとは思っていなかった。

こんな並木道で、枯れ葉に包まれて寝ている女なんて変わった女以外の読み名が思い浮かばない。


「寒いなって思って」


そら、寒いだろう。もう10月も後半だ。そんな時期に私服でジャケットも着ないまま道ばたで眠るんだから。眠たいなら家で寝ればいいのに。

肩よりも少し長い、少し茶色の吉山の髪の毛には、枯れ葉が数枚くっついたまま。気にする様子もない。

大きな瞳は今だうつろで、長い睫がよく分かる。マッチ棒何本乗るんだろうな……。


「取りあえず帰れ。もう暗くなるしあぶねえぞ」

「……ありがとう」


俺の言葉に軽く笑顔を向けてそう返事はするものの、今だ座ったままの吉山にさっき以上のため息をついた。


「ほら、立てって」


そういってぐいっと持ち上げるその吉山の体は、思った以上に軽かった。
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