水曜日、16時20分
先生
「せんせっ」
               
子供らしい無邪気さを使って雨城先生の腕をとる。

「ぁ? 頭(カシラ)。ここ入っちゃダメって言ったろ」

「いいじゃないですか。どうせ先生以外ここ来ないんですし」

先生から離れて、少しふくれて見せる。新聞を読んでいた雨城先生がちらりとこちらを見るのを感じた。

「たまにゃ来るよ。別に仕事サボってるわけじゃねーんだからさ。ここ使うんだってきちっとした俺の権利だ」

新聞を見たままふてぶてしく言う。

「サボってない? 先生今サボってないって言った? 今、木曜日。15時30分。何の時間?」

「あー、おやつの時間、が終わった頃だな。頭。先生に話しかけるときは敬語使えって言ったろ?」

「答えは部活の時間。先生は茶道部の顧問。つまり先生はサボってます」

「子供みたいなこというなよ」

「子供みたいなのはどっちだ」

「おまえ」

「おまえだ」

「なにー、先生に向かっておまえとは何だ」

先生はこっちを見た。思わず視線をそらす。先生は笑っていた。

「先生こそ、生徒に向かっておまえっていいんですか?」

「ダメだ」

「じゃあやめてください」

そらした目をそっと先生に戻す。

「でも頭にならいい気がする」

「よくないです」

「いやでも、頭だぜ? 思うだろ?」

「思わないでください。っていうか同意を求めないでください」

「本当だ」

「あ、うん。ホントにです。ほら、行きましょう?」

今度こそ先生の腕をとって引っ張る。

「せんせ、ほら」

「しゃーねーな」

先生は面倒くさそうなふりをして立ち上がる。裏腹に素早い動作で新聞を畳む。

そうしてすぐに部屋のドアを開けて、いつも私を先に通してくれるのだ。

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