━ 紅の蝶 ━
━ 紅の蝶 ━


 男は何かから逃げていた。
 細い道を駆け抜け、道なき道をひたすらと。
 辺りは暗い。
 どれだけ走っていたのか。
 月明かりしかない夜道を、男は走っていた。

 そしてハッと、我に帰るのだ。

 ここは、一体、何処なのだろう。
 唐突に自我を取り戻す男は、辺りの変わりように暫し沈黙する。
 否、言葉が出なかった、と言う方が正しいのではなかろうか。
 これは、夢なのであろうか。
 足もとが、一面、見渡す限り、紅い。
 一面の――……紅。

 血。

 だと錯覚を起こしたのも束の間、男はその紅の中央――正確には中央かすらも不明だが――にポツリと存在する、黒い影を視界に捉えた。



< 2 / 13 >

この作品をシェア

pagetop