偏愛ワルツ
「下手」

「え……」

「私の足が汚いとでも思ってるの? もっとちゃんと舐めなさい。犬でも、もっとマシな舌使いだわ」

「……」

「返事なさい」

「はい……」

彼は校則を、いくつ違反しているのだろう。金髪にピアス、カラーコンタクト、首筋には十字架のタトゥー。

不良高校生がなぜ、私のところに通うようなったのか。なぜ、私にこんなことを求めてきたのか、よくわからない。

ただ、彼が怪我をしていたのを見て、近くに私の家があった。血が出ているのを放っておけなかった。喧嘩だったらしい。

「大丈夫?」と私は訊ねた。が、彼の返答はなにを差し置いてまず、苦しそうに、「叱ってくれ」だった。

こんなことをしている自分を叱ってくれ、詰ってくれ、蔑んでくれ。

彼は勝手に私の中へ崩れてきた。

だから、叱っている。

いや、罵倒してやっている。

「しっかり舐めなさい。私の肌が潤うくらいね。よだれは残すんじゃないわよ」

「はい……」

彼は、学校ではどうなのだろう。わからない。

少なくとも私の前では、主人の気を窺い続け、尻尾を丸めている犬だ。

だから、私の足を舐めさせている。

だがまだ、ぎこちない。お互いに。
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